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“殺陣”が笑顔を生む。介護施設で見つけた新たな役割
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静岡県静岡市清水区出身の四方 咲子(しかた さきこ)さんは、看護師としての知識と経験を活かしながら、俳優としても活躍する異色の二刀流プレイヤー。看護と時代劇——一見すると交わらないようにも思える二つの分野を、彼女はまっすぐな思いでつなぎ、今、新たな福祉と文化のかたちを模索しています。
そんな四方さんが、富士市での講演やイベントを通して見据える未来についてお話を伺いました。
おじいちゃん・おばあちゃん子が歩んだ、看護師への道
四方さんは、静岡市清水区のご出身。共働きだったご両親に代わって、おじいちゃん・おばあちゃんに育てられたといいます。
「だから自然と“お年寄りと関わること”が、私にとっては当たり前のことだったんです」
高校卒業後は、三島市にある順天堂大学保健看護学部へ。一期生として入学し、看護師としての道を歩み始めました。
「卒業後は静岡病院に就職しました。配属先は、神経内科・小児科・眼科・呼吸器内科の混合病棟。難病を抱えた患者さんや、余命宣告を受けた方と接する日々の中で、いのちと向き合う現場に多くのことを教えてもらいました」
看護の道から、俳優という“もう一つの夢”へ
そんな中、転機となったのがある患者さんからの言葉。
「難病を抱えたおばあちゃんに、“自分の好きなことをやってきなよ”って背中を押してもらったんです」
その一言がきっかけとなり、幼い頃から憧れていた“時代劇の世界”に飛び込む決意をします。
「おじいちゃんと一緒に観た『水戸黄門』や、学生時代に続けていた剣道が原点です。とにかく“殺陣”(立ち回り)がやりたかったんですよね」
俳優養成の場で「殺陣(たて)」の基礎を学びながら、生活の基盤は看護師としてデイサービスで働く——まさに「二足のわらじ」の生活が始まりました。
福祉×時代劇の可能性に気づいた現場
俳優活動を始めた当初は、「殺陣でどうやって収入を得ればいいのか」も分からなかったといいます。それでも地道に活動を続ける中で、思わぬ形で“自分の表現”が人を喜ばせていることに気づきました。
「外国人観光客向けのイベントや、介護施設での時代劇パフォーマンスに出演するようになって、“殺陣って人を笑顔にできるんだ”と実感しました。中には涙を流して喜んでくださる方もいて、福祉とエンタメがこんな形でつながるんだと、手応えを感じました」
現在も週3回はデイサービスに勤務しながら、空いた時間で舞台出演や忍者ショーなどに参加。NHK大河ドラマ『光る君へ』『べらぼう』にも出演するなど、活躍の場を広げています。
東京での交流会の参加
富士市に本社がある株式会社JOINXは、東京都(秋葉原や早稲田)でビジネス交流会を行っています。富士市も後援を行い、地方に興味がある方へ、”富士市で働く”をPRしています。
四方さんも知人を通して、交流会に参加し、富士市で”働く”ことにつながりました。
富士市での講演会、そして“また帰ってきたい場所”へ
交流会をきっかけに、富士市が市民に対しわかりやすく認知症への理解を広めているための活動を行っていることを知り、2024年に認知症講演会出演することになりました。
「富士市はイベントがすごく地域密着型で、人の手がちゃんと届いているなって感じました。講演後、親戚や友人から“ためになった”って連絡があった時は、本当に嬉しかったです」
講演では認知症に関する知識を、演劇や殺陣も交えてわかりやすく解説。参加者からは「楽しみながら学べた」「家族にも聞かせたい内容だった」といった好評の声が寄せられました。
2024年の講演がとても好評であったため、2025年にも再び講演を行いました。
富士市で“殺陣の文化”を広げたい
2025年の講演を終えて、四方さんが今、特に思い描いているのが「静岡・富士市で殺陣を広める」こと。
「静岡には殺陣をやっている人は意外といるんですが、まだまとまって活動できる場が少ない。いずれはみんなで集まって、イベントや体験会を開きたいと思っています。特に富士市は、外国人観光客が増えている場所でもありますし、“THE 日本”を体験してもらえるコンテンツとして、殺陣はとても魅力的だと思います」
富士山が見える橋「夢の大橋」など、映えるスポットと殺陣のパフォーマンスを組み合わせた観光コンテンツなども構想中。新富士駅近くのスペースや、市のイベントと連動した企画など、富士市へ今後提案したいと考えています。
“地元に帰る日”を見据えて——
「いずれは、親の介護などもあり静岡に戻る日が来ると思います。だからこそ、地元で自分にできることを今のうちから模索していたい」
俳優、看護師、そして地域と福祉をつなぐ架け橋として、四方さんの挑戦はこれからも続きます。