心臓血管外科
在籍医師
- 部長: 田中 圭
紹介
心臓血管外科は平成5年4月の開設以来、虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞)、弁膜症、大動脈疾患(胸部から腹部)、末梢血管疾患(慢性閉塞性動脈硬化症、動脈血栓症)に代表される成人疾患を一貫して扱っております。(先天性心疾患は、心房中隔欠損症のみ手術を行っています) 循環器内科との密接な連携のもと、日々診断および外科治療にあたっております。フットワークのよい、迅速な対応をモットーとしており当然、心血管疾患の緊急手術に対しても24時間体制を整え対応いたしております。これまで心臓大血管手術数は462例、腹部動脈瘤以下の末梢血管手術は322例の手術を行っています。
当科における心臓大血管手術の特徴としては、急性大動脈解離や胸部大動脈瘤手術が多く、また、冠動脈バイパス手術においては、人工心肺を用いないオフポンプバイパスを多く行っております。
心臓外科としては小規模ですが、大学病院や埼玉県立循環器病センターなどの大規模病院との連携をとり、手術に際して疾患個々の重症度や特殊性により適切な協力体制が得られるのも大きな特徴といえます。(腎臓内科との連携による血液透析シャント作成困難例に対するシャント作成、動脈表在化、人工血管を用いたシャント作成なども行っています)
成人疾患の原因である糖尿病、腎疾患、高血圧を合併した患者様がほとんどであり、当院での循環器内科、糖尿病内科、腎臓内科との連携が非常に連携がとれているのも当院の特徴といえます。
心臓手術を行うためには、全身麻酔を担当する麻酔科医、人工心肺を担当する臨床工学技師、看護師などの協力が不可欠ですが、術前に各症例についてのカンファレンスを行い、また、術後も日々治療方針を打ち合わせるなど周術期に、各部署が同じ認識を持って継続した看護、医療を提供できることも当科の特徴です。
大動脈疾患
健康と思われていた人が突然急変してしまう病気の1つです。狭心症や弁膜症のように症状はなく、健康診断などでの画像診断で発見されることが多いようです。
大動脈は,胸部大動脈と腹部大動脈に分けることができ,更に,胸部大動脈は上行大動脈、弓部大動脈、下行大動脈の3つで構成されています。各部位から分岐する動脈により手術の危険性も異なってきます。
動脈は、内膜・中膜・外膜の3層構造で構築されています。この3層構造が保たれていることで血管は、高い血圧にも耐えることができるのです。
動脈硬化が進行すると3層構造は破綻し、一部は骨のように硬い石灰化を来たし、また一部は粥状の変化となり血管は脆くなってしまいます。この様な脆い大血管が高血圧にさらされることで、風船の様に拡大してしまった状態を(真性)大動脈瘤と称しています。大血管の壁は拡大するごとに薄くなり、さらに弱くなり破裂の危険が生じます。胸部では6cm、腹部では5cm(いずれも正常の2倍)を超えると破裂の危険が急激に増すため、大動脈瘤の診断を受けた後は、6ヶ月毎にCT検査を行って拡大の有無をチェックしています。
真性大動脈瘤は、拡大すると発生場所によっては声がかすれたり、むせやすくなるといった自覚症状が出る場合がありますが、多くは無症状に進行します。他科での診察検査中に見つかることが多く、最悪は破裂して初めて診断される場合もあります。破裂した大動脈瘤を緊急手術により救命することは困難です。
胸部大動脈瘤は、胸部レントゲンで診断可能なことも多く、腹部大動脈瘤は触診や腹部超音波検査などで発見が可能です。(聴診器も当てない医師でなく、日ごろからよく聴診したり、体中満遍なく触診してくるような医師によって早期発見されることが多いのも事実です)また、大動脈瘤は待機的に精査した後に手術を行うことが大切であり、定期健診での早期発見が重要となります。
真性大動脈瘤とは異なった大動脈疾患として、突然の変化として発症する急性大動脈解離があります。これは内膜の亀裂から中膜の層へ裂け、この空間(偽腔)に血液が流れ込む状態です。上行大動脈に解離腔を生じた状態は(Stanford A),死亡率が高く、多くの患者様は早急な外科的処置を必要とします。
一般的には、胸部大動脈の手術の際は、心臓と肺の役割を代行し温度調節も可能な人工心肺を使用し、人工血管に置換します。多くの症例は、緊急または準緊急手術で対応しています。
急性大動脈は、発生を予測することは難しく、日ごろの血圧管理等が大切となりますが、発生しやすいMarfan症候群は、厳重な管理が必要です。
冠動脈バイパス手術
身体の全ての細胞は、酸素の豊富な血液を必要とします。心臓に酸素を供給している血管は、心臓の表面を走行する冠動脈であります。冠動脈には大きく分けて3本の動脈があり、心臓に酸素や栄養を供給しているのです。
「胸が痛い」と訴える原因の中で冠動脈疾患がよく知られており、狭心症・心筋梗塞の診断名があります。誰もが危険な病気であると認識していても、病態・治療法に関しては、専門医からの説明が必要であることが多いようです。
狭心症とは、心筋細胞の酸素不足であり、細胞自体はまだ死んではいませんが、心筋梗塞になると心筋細胞が死んでしまい、脳梗塞と同じように将来も機能が回復することなく、単なる心臓の壁となってしまう状態です。つまり、心筋梗塞に移行してしまってからの治療はあまり良いものはなく、心不全・不整脈などで生活制限を強いられる事となります。そこで狭心症の段階で治療しておくことが大切なのです。
狭心症の治療には、薬物療法(内服)、カテーテル治療(風船療法)、冠動脈バイパス術の3種類があります。狭心症の患者様に全て冠動脈バイパス術が必要であるわけではありません。循環器内科の専門医と相談し、各治療法の利点・欠点について十分に検討して、患者様にあった治療法を選択することが大切です。
冠動脈バイパス術とは、酸素不足に陥っている領域の心筋細胞に、患者様の別の血管を利用して血流を増やしてあげる手術です。基本的には動脈硬化で狭窄した冠動脈には手をつけず、その末梢の血管に手縫いで新たな血管を縫い付ける方法です。利用できる血管には、胸骨の横を走行する内胸動脈、手の血管である橈骨動脈、胃の栄養血管の1つで右胃大網動脈、下肢の大伏在静脈などがあります。
手段としては、従来、人工心肺を用い心臓の拍動を停止した状態で血管吻合を行ってきましたが、近年、患者様の負担を軽減する目的で、拍動下冠動脈バイパス術(OPCAB)も行っており、それが主流となってきています。
また当心臓血管外科は、富士宮市立病院循環器科、関病院循環器科と医療連携に関する契約を結んでおり、契約病院でのカテーテル治療における緊急冠動脈バイパスの後方支援施設です。
弁膜症
心臓には右心房、右心室、左心房、左心室の4つの部屋と大動脈弁、僧帽弁、三尖弁、肺動脈弁の4つの弁があり、血液の流れは正常では一方通行であります。しかし、リウマチ熱などで弁に病気が発生した場合、弁機能が障害され血液の流れがスムースにいかなくなります。
狭窄症は、弁口の狭小化による血液の通過障害、閉鎖不全は弁の逆流を来たした時の病名です。弁膜症の原因は、リウマチ熱などいろいろありますが、原因不明のことも多く、重症になると心不全を繰り返し手術が困難になったり、突然死したりすることもあり、循環器専門医の診察は欠かせません。
心臓外科では、大動脈弁、僧帽弁、三尖弁が手術の対象となることが多く、手術は大きく分けると人工弁置換術、弁形成術の2つの方法があります。
人工弁には機械弁と生体弁があり、耐久性では機械弁のほうが優れ、生体弁はとくに若年者での劣化がはやく、当科では原則として大動脈弁では65歳以上、僧帽弁では70歳以上の方には生体弁を第一選択としております。機械弁での置換術後は血栓症の発生を予防するためにワーファリンを生涯、内服しなければなりませんが生体弁の場合には手術後3ヶ月間のみでその後は必要ありません。(心房細動という不整脈が合併している場合には生体弁置換術後でもワーファリンの内服が必要になります)
最近は特に、僧帽弁閉鎖不全症に関しては自己弁を温存した再建手術(弁形成術)を積極的に行っております。自己弁の悪い部分をなおして使用するために、心房細動などの不整脈がなければ、ワーファリンは術後3ヶ月の内服でよくその後は必要ありません。
今後、さらにより良い治療法を追及し、弁膜症術後のquality of lifeの向上に寄与してまいりたいと考えております。
慢性閉塞性動脈硬化症
動脈硬化は全身の動脈に生じ得るものですが、特に下肢の動脈硬化は、全身の動脈硬化の程度をよく反映していると言われています。(慢性閉塞性動脈硬化症患者の90%が何らかの冠動脈疾患を合併している)
下肢を栄養する動脈は、腹腔内で腹部大動脈から左右に分岐します。分岐後左右それぞれ分岐をくりかえし、次第に細くなりながら足先に向かいますが、動脈硬化により動脈内腔が狭小化すると、狭窄部より末梢の血流低下が生じます。その結果、歩行時などに虚血による下肢症状が出現します。より中枢側に狭窄があると腰部違和感、腰痛、大腿の違和感、しびれ、冷感、筋肉のはりなどを自覚するようになります。大腿部に狭窄があると、歩行時にふくらはぎがつって、しばらく休息するとまた歩けるようになる間欠性跛行という症状が出現します。早期であればカテーテルによる治療や手術によるバイパスが可能ですが、時期を逸すると下肢が虚血性壊疽に陥り最悪、切断が必要になる場合があります。また、症状が整形外科疾患とも酷似していることがあり、長い間整形外科で治療を受けてしまう場合もあります。
腰部症状、間欠性跛行などの症状を自覚した時は、慢性閉塞性動脈硬化症についても循環器科医師による精査を受けることが、老後も高いQOLを保つためには大切であると考えています。